三宮 麻由子 わたしのeyePhone(2024早川書房)

わたしのeyePhone  iPhoneではなく ”eyePhone”と言うところがこの本のミソです。著者は視覚障害者で、全盲のことをシーンレス(Scene Less)と書きます。シーンレスの著者がSiriの読み上げ機能を使って健常者同様、場合によってはそれ以上の環境を手に入れるエッセイです。

 シーンレスの著者は、Siriの画面を読み上げてくれるVoce Overや「音声コントロール」でiPhoneを健常者同様に操作します。音声入力してボイスオーバーで確認すれば正確な文章が書け、メールやエッセイ(著者はエッセイスト)が作成出来るようです。「5期ぶりの増加」→「ゴキブリの増加」などは笑ってしまいますが、我々でも普通に経験する話です。
 驚いたのは画像をコミュニケーション手段に使っていることです。著者は花を生けそれを写真を撮ってLINEで送り、お母さんから批評を貰うことによって華道や書道を楽しんでいるのです。友人に料理の画像を送ったり、服装のコーディネートの助言を貰ったり、と画像を使ったコミュニケーションが成立します。

 著者は4歳でシーンレスになり4歳までの「視覚記憶」があります。iPhoneを使うようになって、この視覚記憶に変化が生じて来たといいます。

アイコンたちが行儀よく画面に並んでいる様子がイメージできてきた。最初は点字の本をなぞるのと同じく画面上のアイコンを一つ一つ触って、横と縦の指の動きで点としての位置と距離だけをおぼえていた。それがあるときから、アイコンが並ぶ画面を一つの「面」として意識するようになった。ちょうど、見える人が画面全体を一瞥するように、私のイメージにも長方形のスマホ画面全体がいっぺんに浮かぶようになったのだ。

チョット感動しました。

 第3章「スキャン アイキャン」もナルホドと感心させられます。著者は缶詰やレトルト食品を購入すると、(写真に撮るなどして)誰かに読んでもらい点字ラベルを添付しています。文字をスキャンして音読する「リアルタイム読み上げ機能」で、誰かに「読んでもらう」から自ら「読んでみる」に変わります。iPhoneとデジタルがシーンレスの自立に一役買うわけです。
 本書の結びは、

ある日私の掌に突然入ってきた小さな四角い相棒がこれからどんな未来へと一緒に歩んでいってくれるのか、楽しみである

【私のiPhone】

この記事へのコメント