映画 ノック 終末の訪問者(2023米)

ノック 終末の訪問者 [DVD]
 久々に映画。原題”Knock at the Cabin”、M・ナイト・シャマランの最新作です。

あらすじ
 山奥の山荘で休暇を楽しむ3人家族の元に凶器を手にした見知らぬ4人が押し入り、家族3人のうち誰かを生贄にしないと世界は滅びる、さぁ誰を差し出す?、というトンデモナイ要求を突きつけます。
 3人家族はエリックとアンドリューのゲイのカップルと8歳のアジア系の養女ウェン。4人は自称、シカゴの小学校教師レナード(デイヴ・バウティスタ)、マサチューセッツのガス会社の社員レドモンド、ワシントンD.C.の女性コックのエイドリアン、カリフォルニアの看護師サブリナ、職業も出身地もバラバラ。4人は同じ終末のヴィジョンを見て集まり3人のもとに来たのです。

 レナードは言います「我々は終末を防ぐために来た、終末を防ぐために家族の誰かを生贄に差し出せ、世界を救えるのキミたち3人しかいない、我々は選べないキミらで選べ」と。バカげた要求を当然二人は拒否します。
 この4人はカルトの信者か?。教師がTVを付けると、そこに映し出されたのは世界各地で起こる地震と津波、火災、パンデミックの映像。この滅びつつある世界を救えるのは3人だというわけです。

 3人の前で、「人類の一部は今裁かれる」と教師はレドモンド、エイドリアン、サブリナを次々と殺し、その度に災厄はエスカレートします。最後はレナードが生贄を促すかの様に自殺し、押し入った4人は消えます。
 エリックはレナードの予言を信用する様になり、娘のウェンを終末の世界から救うために私を生贄にしろとアンドリューに迫り、自らが生贄となって世界は救われる…ナンダそれは!?。

 シャラマンだからきっと奇抜なオチを付けるんだろう、その一点で観客を引っ張ります。ところがオチはありません(そのため、この映画の評判はよくありません)。

感想
 エリックは、4人の「終末の訪問者」は『黙示録』の支配、戦争、飢饉、疫病を司る四騎士だと言います。この4つの蔓延は人類に破滅をもたらすと4人は警告しに来たのだと。確かに、権威主義世界では支配と被支配があり、ウクライナやパレスチナでは戦争があり、気候変動で飢えが発生し、新型コロナウィルスのパンデミックは先頃体験したばかりです。

 映画ではエリックを生贄に捧げることで世界は救われます。生贄とは何か?。歴史的には生きた動物や若い娘が生贄となります。動物は食料であり財産であり、若い娘は愛情や性の対象です。いずれも欲望の一部を犠牲にする(差し出す)ことで不条理を回避し、精神の安定を得ようとする行為です。生贄を供物、御供(ごくう)と置き換えれば、これはたぶん宗教発生の淵源です。では、直面する危機を回避するために何をなすべきか?、現実的な「生贄」とは何か?、答えはありません。

 映画は、少女がバッタを獲って瓶に入れ、バッタに名前をつけるシーンから始まります。そこへレナードが現れこの昆虫採集に付き合います。バッタにとってみれば迷惑な話であり厄災であり、人間は「終末の訪問者」にほかなりません。この導入シーンが映画の要約です。
 ゲイのカップルと8歳のアジア系の養女という普通の概念からは外れている家族、職業も出身地もバラバラで繋がりが無い4人、且つ世界の終末と生贄、という極端に現実を切り離し抽象化された設定で、世界が直面する不条理と現実が問われます。
 シャラマンらしいオチに期待した観客は裏切られますが、シャラマンのメッセージだと考えるとこの結末もアリかと。個人的には面白かったです。

 ちなみにデイヴ・バウティスタは『ブレードランナー2049』に登場する逃亡レプリカントを演じた元プロレスラーで、ルパート・グリントは『ハリポタ』のロンだそうです。

監督:M・ナイト・シャマラン
出演:デイヴ・バウティスタ、ジョナサン・グロフ、ベン・オルドリッジ、クリステン・ツイ、ルパート・グリント

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