映画 ヒトラーのための虐殺会議(2022独)

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ヴァンゼー会議
 原題”Die Wannseekonferenz”。ユダヤ人絶滅のためにナチスが開いた「ヴァンゼー会議(wiki)」を描いた映画です。1942年1月20日、ベルリンのバンゼー湖に建つ豪邸にナチス高官15名が集まり、「ユダヤ人問題の最終的解決」を議題とする会議が開かれます。議長は「金髪の野獣」として名高い親衛隊大将ラインハルト・ハイドリヒ。事務局が親衛隊中佐アイヒマン。「ヴァンゼー会議」には議事録が残っており、映画の冒頭に議事録に基づいて作られたというキャプションが入ります。

 会議の前年1941年には、6月に独ソ戦(バルバロッサ作戦)が始まり、開戦当初はドイツ軍はソ連赤軍を圧倒し10月にはクレムリンに迫ります。ソ連はゾルゲの諜報活動によって極東軍を東部戦線に投入してドイツ軍の進撃を食い止めます。11月に日米交渉は破綻、12月には真珠湾によって太平洋戦争が没発しアメリカは同時に第二次世界大戦に参戦します。
 こうした状況下でナチスのユダヤ人の国外移住計画は潰れ、ポーランドなど東部占領地域へ移送し「処理」する計画へと変更されます。この移送・処理を巡って「ユダヤ人問題の最終的解決」が話し合われたわけです。

スクリーンショット 2024-11-12 18.17.10.png 1.jpg ハイドリヒ

ユダヤ人問題の最終的解決
 会議は、議長にハイドリヒ(国家保安本部部長、ベーメン・メーレン保護領副総督)、事務局に親衛隊中佐アドルフ・アイヒマン(ゲシュタポ、ユダヤ人担当課長)。親衛隊中将ハインリヒ・ミューラー(ゲシュタポ局長)、同オットー・ホーフマン(親衛隊中将)などナチス高官と、国務長官クリツィンガーなど首相官房、内務省、外務省の政府高官が参加します。親衛隊主導で国家プロジェクト「ユダヤ人問題の最終的解決」を政府に承認徹底させようという会議です。会議の席順を見ても明らかで、ハイドリヒの両脇に親衛隊中将、進行はゲシュタポのアイヒマン。右側に占領地域の将軍、親衛隊高官が並び、左には党、政府の高官が並びます。

 会議までにすべての解決方法はハイドリヒとアイヒマンによって既に計画されています。欧州全域のユダヤ人1,100万人を輸送し抹殺するわけですから、その労力は多大です、おまけに戦時下です。熟練工は対象者から外すべきだ、東部ではこれ以上ユダヤ人を受け入れられない、等などそれぞれの組織の利害が衝突します。また1,100万人の資産の取り合いが始まります。四カ年計画庁は従来通りウチものだと主張し、東部占領地域省はウチのユダヤ人資産はウチのものだと。「獲物の配分は仕留めてからだ」と横槍が入ります。

 論議に親衛隊中将ホーフマンが割って入ります、

欧州新秩序の礎となるのがこの最終解決なのだ。低劣な人種をすべて排除することが目標。ドイツ人が定住して東部をゲルマン化するために、民族のごった煮は解消しなくてはならない。ドイツ人以外の民族は奴隷になる、欧州の新秩序は何億もの民族改造が必要であり、ユダヤ人の最終解決は1,100万人、その程度だ。

これがナチスの論理です。

 国務長官クリツィンガーが疑問を呈します。ウクライナの特別処理は33,800人に36時間かかった。1時間に9387人だから、昼夜別なく老人、女も子供も処理して、1,100万人だと11,720時間488日かかる、と。

 が年上だから牧師の子供だから、倫理を考えてしまう。

ホーフマンは、人道主義などと寝惚けたことを!ユダヤ人は罰せられるだけのたことをした。我々の正当防衛だ、やらねばやられる、と。クリツィンガー続けます、

ドイツ人を心配しているのです、若者が心配です。キエフでは33,000の死体の山を築いたんですよ。そんな経験をしたら人は残酷になる。サディズム精神疾患 アルコール依存症を心配する。

アイヒマンがより効率的で負担の軽い方法を述べます。

ユダヤ人は鉄道でアウシュビッツに到着します。労働不可能な者を選別し所持品を没収、消毒と偽ってガス室に誘導しガスを注入します。正しく行えば10〜15分で完了します。高性能な焼却炉も計画中です。
死体を焼却炉に運ぶのはユダヤ人です、彼等も最後には特別処理します。

鉄道からガス室へ直行、宿舎は不要になる、と誰かが言い、それにエレガント!と賞賛の声があがります。

工程が分業化され対象者と実行者の接触が避けられ、心理的負担は僅かです。快適で効率的、匿名での処理が可能となります。

 映画ラストで600万のユダヤ人が虐殺されたというキャプションが入ります。ユダヤ人虐殺がビジネスライクに会議で話し合われる様子は見ていて背筋が寒くなりますが、現在でもこうやって「戦争」が論議され、多くの人が殺されるのでしょう。

 能吏アイヒマンが印象的です。アイヒマンは逃亡の末捕まり1961年にイスラエルで裁判にかけられます。彼は、ホロコーストの罪を認めず、命令に従っただけだと無罪を主張します。平凡で小心な兵士がホロコーストの片棒を担ぎ、命令を実行しただけだと主張するこの裁判から、ハンナ・アーレントは、悪人だけが悪を為すのではなく、平凡な人間も悪に手を染め得る、と結論付けます。有名な「凡庸な悪」です。アイヒマンは1962年処刑されます。

監督:マッティ・ゲショネック
出演:フィリップ・ホフマイヤー

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